餅に野菜を巻いて食べるのが“通”

長方形の薄い餅を熱いだしにしゃぶしゃぶと3~5回くぐらせると、餅がとろり。だしと相まってちょうどいい味加減で、次から次へと口に運んでしまう。餅に野菜を巻いて食べるのが“通”だという。
明治時代の町屋造りの清水庵(倉吉市堺町1丁目)は2002年1月にオープン。120年近く続く餅屋を継ぐ清水栄一社長(63)が始めた。自宅兼工場の隣にあった現在の店舗は元は米屋だった。空き家になり、清水社長が買い取った。
隣とはいえ、建物の中に入ったことはなかったという清水社長。広い間口、天窓を見上げる吹き抜けの意匠…。「昔でいう分限者(ぶげんしゃ)ですわ」。取り壊すのをやめ、家業の餅を取り入れた食事処として生まれ変わらせた。
当初はヨモギ、トチ、ユズの3種各4枚の計12枚でスタート。遠慮なく食べてほしいと思い、大鍋でなく1人用の鍋にこだわった。カツオだしに肉のようにしゃぶしゃぶして食べる“餅しゃぶ”はたちまち人気となった。
1枚の餅の重さは12グラム。厚さは3ミリ。試行錯誤を重ねて編み出したサイズだ。「この3ミリが最適。これよりも薄くても厚くてもだめ」と自信を見せる。
餅の種類もゴマ、シイタケ、アミエビ、トウガラシ、トウモロコシ、ブルーベリー、抹茶、ニンジンと増え、材料は自家製野菜などを使い12種類がそろった。
「12」という数にこだわる。「十二単(ひとえ)など、みやびでめでたいものを連想させるから」。「あとは(餅の)色目。もう一つ(自分の中で)しっくりこない」と、どんな材料を使おうか日々思い巡らせる。
清水社長は「本業が餅屋だというのが強み。餅しゃぶは商標登録をしており、“倉吉発”の料理」と胸を張る。茶わん蒸しやとち餅のあんかけなども添えられ、郷土料理として定着しつつある。