平成28年8月24日~26日所管事項にかかる県外調査

 1 調査箇所
平成28年8月24日(水)
     ・可児市文化創造センター(岐阜県可児市下恵土)
平成28年8月25日(木)
     ・ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡県静岡市駿河区大谷)
      ・静岡県庁(静岡市葵区追手町)
     ・東洋大学PPP研究センター(東京都千代田区大手町)
平成28年8月26日(金)
     ・神奈川県立近代美術館(神奈川県三浦郡葉山町一色)

2 調査委員
   内田(隆)委員長、西川副委員長、
   上村委員、伊藤委員、稲田委員、濵辺委員、木村委員、福浜委員、松田委員

3 調査内容
   ○可児市文化創造センター
   ・文化芸術振興とまちづくり及び県立高校教育との連携について
   ○ふじのくに地球環境史ミュージアム
    ・高校空き校舎を活用した県立博物館の開設及び運営について
   ○静岡県庁
   ・家庭教育支援条例について
   ○東洋大学PPP研究センター
   ・PPP(公民連携)・PFIの全国取組状況及び留意点について
   ○神奈川県立近代美術館
   ・PFIによる美術館施設の建設及び運営について

4 随行者
   議会事務局調査課  村中課長補佐、池原係長

5 調査結果
 今回の調査のテーマは、「文化芸術振興とまちづくり及び県立高校教育との連携」、「家庭教育支援条例」、「PPP(公民連携)・PFIの全国取組状況及び留意点」、そして県立美術館構想に関連した2つのテーマ(「高校空き校舎を活用した県立博物館の開設及び運営」及び「PFIによる美術館施設の建設及び運営」)でした。

(1)文化芸術振興とまちづくり及び県立高校教育との連携について
   可児市文化創造センター(「アーラ(ala)」)は、ホール(劇場)に毎年30万人程度の来館者があり、市人口(10万人)の約3倍に達しています。
   私たちが館内を視察している間も、小さなお子さん連れの若いお母さん方、学校帰りの中高生、イベントに来場された方々などで、賑わっていました。「小さな都市・地域だからこそ、マーケティングが大事。大事なのは、いかにリピーターをつくるかというマーケティング」とのお言葉がありましたが、それを実現されていることに、驚きを覚えました。
   衛館長様からは、アーラの取組だけでなく、文化芸術振興とまちづくりとの関わりについて、熱く哲学を語って頂きました。文化芸術の劇場(ホール)を、文化芸術施策を行う手段に留まらず、地域住民全体に役立つものとするために、海外の動向も参考としながら、「社会貢献型マーケティング」「社会的包摂」「ソーシャル・インパクト(投資)」など、社会政策的な活動を重視しておられました。
   これらの理念は、実際の劇場での実践につなげており、その代表が県立高等教育との連携でした。高校でのコミュニケーション・ワークショップの開催により、中退者が40人から30人程度減少し、現在は9人になっているとのことでした。県教育委員会側からの求めに応じた活動のため、ハードルが低かったという側面はあるでしょうが、本県の「鳥の劇場」でも学校教育との連携が行われており、今後の県立高等教育との連携のあり方を考える上で、参考となる取組だと感じました。
   あわせて参考となるのは、「文化芸術」「教育」「福祉」など、問題を縦割りの領域ごとに捉えるのではなく、「人間」という観点から総合的に捉え、垣根を越えて実践に取り組まれていることでした。これは、特に今後の地方創生のあり方を検討する上で、役立つ視点であるように感じました。

 (2)家庭教育支援条例について
静岡県では、全国最初の導入例である熊本県「くまもと家庭教育支援条例」(H25施行)を参考にしながら、平成26年10月に家庭教育支援条例を制定しました。
自民党県議団が中心の検討、関係団体との意見交換、議案の議員提案などは、今年5月に訪問した鹿児島県と類似しています。しかし、会派代表によるプロジェクトチームの設置、県議会での「条例案検討委員会」設置、パブリック・コメントの実施など、超党派でよりフォーマルな形により検討を進められたことは、静岡県の特徴だと思われます。
 条例の趣旨は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、社会全体が一体となって家庭教育の支援に取り組むというもので、他県の家庭教育支援条例ともほぼ同様の内容でした。本条例では、前文にかなり重きを置き、「条例の顔」という性格とのことでした。家庭教育支援条例ができることで、事業仕分けによりほとんど実施していなかった家庭教育支援事業が、条例制定後に再度予算計上されるという効果が生まれていました。ただし、思想・信条の自由など憲法上の論点については検討していなかったとのことであり、検討に際しては、弁護士・研究者などの専門家の協力を仰ぐことも考える必要があるのかもしれないと感じました。
 具体的な施策としては、条例そのもののPRにかなりの力を注がれていました。また、条例制定前に家庭教育実態調査を実施して地域課題を把握すること、「つながるシート」と名付けた家庭教育用のワークシートを作成して学校の保護者会などで活用してもらうこと、アドバイザーとして家庭教育支援員を養成することなどに取り組まれており、いずれも重要な取組でした。条例制定に当たっては、具体的な施策の実施もにらんで、事前に執行部と充分な意向調整を行っておくことが重要だと感じました。

 (3)PPP(公民連携)・PFIの全国取組状況及び留意点
 東洋大学は、PPP研究センターと大学院公民連携専攻を設置し、国の政策立案にも深く関わり、自治体の実践にも数多く関わっておられます。
 PPP/PFIの検討は、全国で先行事例があれば検討の対象となり、新規の建設事業だけではなく、改修事業も対象となるとのことであり、かなり幅広い事業が対象となります。PPP/PFIの導入は「『できる』のは当然であり、『どうやるか』の問題」という言葉が印象的でした。
  国が策定中である「PPP事業における民間対話・事業者選定プロセスに関するガイドライン」では、事前の官民対話(入札の前の対話)を合法化したり、民間事業者がよい提案を行った場合に総合評価落札方式などで加点できるようにするとのことでした。国は民間活力の導入について、数値目標(10年間で21兆円)を定めていることも含めて、かなりの積極姿勢であることが改めて認識できました。
     また、PPP/PFIは、具体的な施策として公共施設等総合管理計画と深く関わっており、今後の行財政運営や公共施設管理において、重要な位置を占めることが理解できました。後述のとおり、本県では県立美術館構想への関わりがありますが、これに留まらず、PPP/PFIへの理解と関心を高めることが重要だと感じました。

 (4)県立美術館構想関連(「高校空き校舎を活用した県立博物館の開設及び運営について」、
   「PFIによる美術館施設の建設及び運営について」)

  ア 高校空き校舎を活用した県立博物館の開設及び運営について
     ふじのくに地球環境史ミュージアムは、昭和61年の県総合計画に「博物館構想の推進」と位置付けられてから、30年間かけて今年3月に開館しており、その間に資料の収集保管業務を開始するなど、周到な準備を行っておられました。立地場所が決まってから工事に着手するまでも数年かかっており、博物館・美術館を整備するためには、検討・準備にそれなりの期間が必要であることが改めて認識できました。
     整備方法の特徴は、県立高校空き校舎を活用して、建設費を約12億円に抑えたことです。「普通なら100~200億円程度で1/10程度」と自負されていましたが、太平洋を望む風光明媚な場所ではありますが市街地から離れて県外客には分かりにくい立地であり、また収蔵品も美術品ほど神経を使う必要はないとのことであることから、美術館構想の検討にはそのまま当てはめることはできない側面もありました。

     一方、今年7月に「DSA日本空間デザイン大賞2016」の大賞に選ばれるなど、内部のデザインは非常に洗練されていました。東京の民間事業者に委託しているとのことでしたが、美術館の場合はよりデザイン性が問われるため、建物・内装のデザイン性の確保が重要な課題であると認識できました。
     安田喜憲館長は、高名な研究者(環境考古学)ですが、基本構想検討委員会の委員長として長くこの博物館に関わっておられます。自らの発案で、全国で初めて「移動ミュージアム」を実施し、平成27年度には県内66か所で約50万人が見られたとのことでした。美術品の場合、実施できる場所はさらに限定されるでしょうが、県立美術館がどこにできても県民に幅広くメリットを提供していくためには、既存の美術館・博物館との連携も含めて、県内各地にこちらから出かけていくアウトリーチが大事であることが認識できました。また、このようなリーダーシップとプランナーを兼ねた方がいらっしゃることが、この博物館の特徴であり、本県の美術館構想の検討でも参考となるように思いました。

  イ PFIによる美術館施設の建設及び運営について
     神奈川県立美術館は、「鎌倉館」(平成27年度末閉館)が日本初の公立の近代美術館として昭和26(1951)年に開館しており、長い歴史と伝統を有しています。また、今回訪問した「葉山館」も、日本初の美術館でのPFI事業として、平成15年に開館しました。
    PFI事業を実施するための留意点として、「PFIに何を期待するのかが明確でないと、何も生まれない」「場所が決まらないと、PFIは検討できない。場所が決まってすぐPFIを検討しないと民間のノウハウを吸収できない」「サービス性や集客など、民間のノウハウを早い時期から吸収していくことが大事」などのアドバイスを頂きました。
     一方で、契約期間が30年など長期だと、道筋が決められすぎていて抜本改革ができず、「安定運営による収益性の確保が、美術館の成長を止めてしまうことが、最大の欠陥」との評価もありました。また、美術館は特殊な施設で、温度や湿度など特殊な条件があるため、「時間をかけて検討するのか、機を逸しないように早く進めるかは非常に難しい」とのコメントもありました。PFIを検討するに当たっては、導入そのものに加えて、早期決定のメリットとデメリットも検討する必要があり、実施主体には重い責任が生じるように感じました。
     水沢館長は、本県の美術館整備基本構想検討委員会の委員を務めておられますが、県立博物館や前田寛治に高い評価を与えておられました。「鳥取県の美術品のコレクションのレベルは非常に高く、日本の公立美術館の中でもトップクラス」「前田寛治は、世界に冠たる画家。日本近代絵画の十傑に入る」「美術館をつくることで、地域出身の作家の評価を上げ、歴史をつくっていくことができる」との指摘は、非常に重要だと感じました。特に、『前田寛治美術館』ができてもいいくらい」との評価には、委員からも驚きの声が上がっていました。前田寛治への高い評価が県民の中で共有されていないことについては、今からでも博物館などによる啓発取組が必要ではないかと感じました。
  
  ウ まとめ
    今回、「ふじのくに地球環境史ミュージアム」及び「神奈川県立美術館」の現地調査によって、県立美術館検討について、新たな知見を数多く得ることができました。今後も、県立美術館構想の検討に当たっては、他県立の美術館などを引き続き調査し、知見を深めていくことが必要だと感じました。

 
  

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