日本最初の歴史書「古事記」には、大和朝廷が諸国に鳥を捕らえさせ、これを税として納めるように命じていたという一節があります。そして、当時、鳥取平野には、沼や、沢の多い湿地帯で、水辺に集まる鳥などを捕らえて暮らす狩猟民族が住んでいました。これらの人々が、大和に政権ができてからその支配体系に組み込まれ、「鳥取部」として従属するようになり、そこからこの地の呼び名「鳥取県」が生まれたとされています。これはほんの一例で、鳥取県には、素晴らしい伝統文化や豊かで美しい自然とともに、神話から続く伝説や地元で代々語り継がれる昔話、逸話がたくさん残っています。その地にまつわるお話は、その地の風土、歴史や文化をよりよく知る手掛かりになります。
  

佐治谷ばなし

「かにのふんどし」

 むかーしむかし、佐治の山奥に住んでいる若い衆が、海沿いの村からお嫁さんをもらって暮らしていました。あるとき、お嫁さんが実家に帰っており、男がその嫁の家に遊びにいくことになったのですが、焦ったのはこの男の両親でした。

 田舎暮らしで、めったにひとの家に行くことなんてなかったため、息子は行儀作法をまったく知りません。嫁の実家で恥ずかしい真似をしないだろうかと案じた両親は、出発の日の朝、大急ぎで息子に言って聞かせました。「よいか、嫁の家に行ったら、この時期のことだから、かにというものがごちそうにでてくるに違いない。かにというものは、まずはふんどしをはずして食べるというのが作法だぞ」「それから、嫁の家にいったらお茶を出してくれるだろう。熱いお茶だからといってフウフウ吹いては行儀が悪い。たくあんを入れてちょっとかきまぜたらすぐ冷めるから、それからゆっくり飲むのだぞ」

 男はうんうんとうなずき、嫁の実家に向かいました。その日の夕方、男が無事到着すると、「さあさあ婿どの、疲れたでしょう。まずは先に湯に入ってくだされ」と母親が風呂に案内しました。ところが湯が熱くて熱くてとても入れそうにありません。そうだ!男は裸のまま台所に飛んでいき、漬け物の大根を2、3本探してきました。それを湯船につっこんで、ぐるぐるかき回して冷ましていたところを、嫁が見つけてびっくり。しかたなく、漬け物臭い風呂に、どうにか入れてあがらせたのでした。

 「やれやれ、いい湯だったな」男が気分よく一服していると、夕食になってお膳が出てきました。座についてみると、予想どおり大きなかにが出てきました。「これだなあ」男は得意気に立ち上がり、おもむろに袴を脱いで、自分のふんどしをはずし、それをきちんとたたんでお膳の横に置き、それからゆっくり、かにのお膳に箸をつけたということです。


「にんどうかずら」

 さて、昔、鳥取のお城の殿様から、さじの大庄屋のところへ、お布令書が配られた。 「このたび、御用これあるにより、“にんどうかづら”の皮をはぎとり、至急に差出すべきこと」と書いてある。庄屋はこれを読むなり顔色をかえてうなった。 「忍道さまの面の皮をはいで出せえって書えてあるがこれは一大事だ、困った事になったわい。」

  早速に村の主だった者を集めて相談した。 その頃、村のお寺に忍道と呼ぶ和尚さんが居たからだ。なんぼ、殿様の言い付けでも、和尚の顔の皮をはぐことは出来んので結局、歎願するより外なしという事になり、揃って鳥取まで出て役人にこのことを話して歎願した。

 すると、役人はプーッと吹き出して、 「これ、これ、心得ちがいであるぞ、坊主の皮ではないわ、忍冬という葛があるであろうが、その葛の皮をむいて出せえと言ったのじゃ」と言うことで、一行やれやれと安心したということである。


「刺し鯖」

  さて、昔は(道路も悪いし)山奥の村の者はほとんど海魚を見る事もなく、もちろん、食べる事はむずかしかった。 それでも、鯖の腹を割って塩をした「刺し鯖」は盆の市によく買って盆の行事にも使い、家中で食べていた。  ある時、田舎のおやじ連中が四~五人連れ立って伊勢参りをやった。長い日数を歩き続けて、どうにかたどり着いて五十鈴川の傍に出た。 「やれやれ、ありがてえことにゃあ、まあ、みんなが元気でよかったわいや、よう拝まあぜ」 「まあ、先にお清めようせにゃあいけん」そう言って、五十鈴川の美しい流れから口をすすいだり手や顔を洗っていた。

 ところが、鮎がピョンととび上がった。川の中も泳いでいるのが見える。 「ありゃ、なんだらあかいや」 「なんだあ、ぼっこう大けえ魚だったが、鯖じゃねえだらあか」 「うんにゃ、鯖ちゅうなあ、腹あ割って、塩をよけえして、二つ一緒になっとる筈だけえ、ちがうがよう」すると、もう一人のもの知りは、 「うん、ちがう、ちがう、鯖ちゅう魚は、竹の串うのみ込んで泳ぎょるにちげえねえが、こりゃ鯖ぢゃあねえわいや」みんながいろいろに言い、賑やかに話したという。

 

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