【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
徳光和夫さんは85歳になっても現役のフリーアナウンサーとして活動し、日本認知症予防学会の「認知症予防大使」も務めています。2026年の「認知症予防の日 記念式典」で徳光さんと浦上克哉先生(日本認知症予防学会 理事)がトークライブを行いました。ここでは、その一部をかいつまんでご紹介します。

認知症による「帰宅願望」
徳光:
私の妻は8年前に認知症を発症し、症状が進んで「実家への帰宅願望」が出てきました。私が帰宅してドアを開けた瞬間に、妻が玄関で身支度を整えて待っていることが何度もありました。妻の実家は、すでに他人に売却され、家も建っていない状態なのにです。近頃は、私を待たずに一人で実家へ出かけたのか、姿が見えなくなりました。
警察の協力を得て、家や駅の防犯カメラをチェックしても見つかりません。最終的には自宅近くの予備校の階段に座っていたところを警察に保護されました。そのときの妻は目がとろんとしており、まるで夢遊病者のようでした。しかし、翌朝には何もなかったように明るく振る舞うのだから驚きました。
普段からいつも異常な行動が見られるわけではありません。よく観察していると、夜になると精神状態が不安定になってきて「実家に帰る」と言い出します。私が「でも、お母さん亡くなったじゃない」と言っても、「何を言ってるの?母とは3日前に話したわよ」という返事が戻ってくるのです。
そこで、主治医からアドバイスをもらい、帰宅願望が出たときに「今日はこの家(=自宅)に泊めてもらおうよ」と言ってみました。すると妻は「昨日だって泊めてもらったでしょ。それでもよろしいの?」と言い、うまく収まりました。今後、念のためにGPSを付けることも検討しています。
浦上:
奥様は「実家のあったところ」に帰りたいのではなく、「昔の良かった時代の実家」へ帰りたいと言っているのだと思います。このことを理解したうえで接するとうまくいくかもしれません。また、GPSは認知症の人が行方不明にならないようにするための重要なツールですので、ぜひ活用してください。GPSの導入費用に補助を出している自治体もあります。
懐かしい歌のハーモニーに喜んだ
徳光:
妻に何か変化を感じ取ってもらいたくて、歌舞伎や喜劇、コントなどを一緒に見に行きました。しかし、以前は好きだったのに関心がなくなったり、笑うポイントが分からなかったりして、あまりうまくいきませんでした。それなら音楽はどうかと思い、近くのコンサートホールへクラシックを聞きに行きましたが、これにもあまり反応しません。
ところが、「ベイビーブー」というコーラスグループのコンサートに連れて行くと、昔懐かしい歌(童謡やジャズなど)のハーモニーに妻は反応し、目を輝かせて「本当に今日はとってもいい日だった」と言ってくれました。歌謡曲のコンサートでもいいのかもしれませんね。
浦上:
日本認知症予防学会でも音楽療法は認知症予防に一定の効果があることを証明しています。ただし、認知機能が低下すると、クラシックのような高度な音楽にはついていけなくなることがあります。昔の懐かしい音楽、青春時代の思い出の曲であれば、聴いて当時を思い出すことができて、今の奥様にとっては親しみやすいのではないでしょうか。

日々「取り組む」ことと感謝を忘れずに
徳光:
シンガーソングライターの小椋佳さんが「徳光さん、人間の中で一番贅沢な遊びは“学び”じゃないかな」と言っていました。私が85歳でも現役でいられるのは、毎日何かしら学んでいるからこそだと思っています。
学びは「こなすこと」ではなく「取り組むこと」だと考えています。私は長年にわたり歌謡曲番組の司会をしてきました。歌手はヒット曲が出るとその曲を何度も歌います。その中で手を抜いて、惰性で“こなして”しまうと、その歌手は大体ダメになります。逆に、同じ歌でも新たな工夫をして歌う“取り組み”をする人は長続きして、スターミュージシャンになります。
私自身、幸いなことに毎日いろんな人たちと出会います。若い人たちと一緒に仕事をすることも多いです。なるべく面白い話を引き出すためには、その人について学ぶという「取り組み」が必須です。この“取り組み”が認知症予防には重要だと感じています。一方で、妻は子育てが一段落したタイミングで、それまで真面目に「取り組んで」きた主婦業を「こなす」ようになってしまいました。そのために認知症が忍び寄ってきたと思えてなりません。
妻が以前のように家事をこなせなくなったからこそ、いかに自分が何もできなかったかを痛感しています。妻が認知症になったからこそ、彼女との日々を改めて尊く感じることができたことに私は感謝しています。