3-6教育・啓発

I 現状(分析)

【施策の背景】

 本県における同和問題の教育・啓発については、昭和44年に「同和対策事業特別措置法」が制定されて以来、部落差別をなくするために、各種の啓発活動に取り組み、また、昭和50年に「鳥取県同和教育基本方針」を制定し学校・社会教育現場などにおける同和教育に取り組んできた。しかし、積極的な啓発への取組の反面、課題も生じてきており、啓発の条件整備に資するため、平成6年に「鳥取県同和問題啓発方針」を策定した。
 また、同和問題をはじめとするあらゆる人権問題の教育・啓発としては、第7次鳥取県総合計画(計画期間:平成8年度~平成12年度)の主要事業の1つに「人権が尊重される社会づくり」を掲げ、平成8年に制定した「人権尊重の社会づくり条例」に基づき、平成9年に「人権施策基本方針」を策定した。その後、この「基本方針」の教育・啓発のあり方を補完する形で「人権教育のための国連10年鳥取県行動計画」を平成11年に策定した。なお、平成13年度には、教師用指導書「人権・同和教育の指導のあり方」を作成中である。
 なお、国においては、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の第7条に基づき、平成13年度中に基本的な計画を策定することとなっている。本県は、「人権施策基本方針」及び「人権教育のための国連10年鳥取県行動計画」を人権教育・啓発の基本計画と位置づけており、国の策定する基本的な計画と比較して不十分な点があれば見直すこととしている。

【県の取組状況】

平成13年度における県の教育・啓発事業は、別添のとおりである。また、市町村や地域、学校のPTAや企業、その他いろいろな団体などにおいても教育・啓発の活動がなされている。

【差別事象の状況】

 過去5年間の県内の差別事象の状況(県同和対策課に報告があったもの)は、次の表のとおりである。

県内の同和問題等に係る年度別差別事象発生件数(報告分)平成13年12月20日現在

 結婚や就職の差別については、個人プライバシーの問題もあり事象としての報告がされにくい。しかし、結婚については、結婚式が出来ない、一方の親族が出席しない、親戚づきあいが出来ないなどの実態もあるほか、就職については、面接時点の違反質問などがいまだ後を絶たない。なお、結婚差別について平成12年に実施した「同和問題についての県民意識調査」(以下、「意識調査」という)で見てみると、「結婚について同和地区出身であることが不利な条件になっていると思う」の回答は、約半数の47.3%に上り、まだまだ差別が存在する。
 また、差別事象を発生状況別に見てみると、落書きと学校現場での発言が非常に多いことがわかる。

県内の同和問題等に係る発生状況別差別事象発生件数(報告分)平成13年12月20日現在

 最近の落書きの特徴としては、公然と人目に触れる場所への悪質な内容の落書きが多くなってきている。学校現場での発言は、人とふざけたり喧嘩をするなかで相手をちゃかしたり、脅し攻撃したり、蔑むために賤称語を利用するなどの状況が多くなってきている。

【生活実態調査結果による人権侵害されたときの対応状況】

 「人権侵害されたときの対応」は、「黙って我慢した」が一番多く44.3%、「身近な人に相談」27.6%、「相手に抗議」22.3%となっている。人権相談の専門的機関でもある「法務局又は人権擁護委員」、「弁護士」に相談したとした人は、1%に満たない。早急な相談窓口の整備が必要である。侵害の内容別に見ると、「結婚」では、「身近な人に相談」、それ以外では「黙って我慢した」が一番多い。

【意識調査結果】

ア 教育
 「学校教育の中で同和問題について学習したことがありますか」という問いに対して、全体の回答(表1参照)は、小学校で学習したが22.1%、中学校で学習したが28.7%、高等学校で学習したが15.7%、短大・大学で学習したが2.4%であった。

表1同和教育の学習状況

 その中で、小学校で同和教育を受けたとする人(表2参照)は、40歳以降で大きく減少している。同和教育としての多くの取り組みが始まったのが約25年前であることがわかる。また、どの年代にも同和教育を受けたとする人があることから、先駆的に取り組んだ教師が存在したことが伺える。
 また、20歳~24歳の年齢層では、小学校で同和教育を受けたのが89.6%、中学校で同和教育を受けたのが88.5%、高等学校で同和教育を受けたのが60.4%、短大・大学で同和教育を受けたのが9.4%であった。
 学校同和教育を受けた人たちが、同和教育を学んだ感想(表3参照)は「部落差別が不合理であり、許されないものであることが理解できた。」とするものが58.5%、「部落差別以外のいろいろな差別に気づくようになった」が49.1%でおおむね好意的に受け止められている。しかし、「部落差別をなくすために何かしなければならないと思った」が18.0%しかなく行動化につながっていない。また、「あまり理解できなかった」が12.4%、「自分には関係ないと思った」が5.8%あり、理解していない人がいる。

表2年齢階層別、同和教育の学習状況、表3同和教育の感想

イ 啓発
a 講演会・研修会
 講演会・研修会の参加状況は、「講演会・研修会に参加したことがない」の回答は32.4%で、前回(平成5年)の36.7%、前々回(昭和63年)の41.7%と比べると減ってきている。
 また、職業別に「参加したことがない」を多い順(表4参照)に見ると、学生が63.6%、商工業・サービス業が45.2%、無職が43.9%である。なお、公務員・教員においても7.4%が参加したことがない。

表4職業別、講演会・研修会への参加状況

 「講演会・研修会へ参加しなかった理由」を見ると、「そのような講演会・研修会があることを知らなかった」が一番多かった。また、「知っていたが参加する気がなかった」「自分には関係ないと思い、参加しなかった」が、前回調査より増えている。年齢別に見ると、40歳未満で「知らなかった」が、半数以上となっている。
 「主催者別参加状況」(表5参照)を見ると、「市町村・市町村教育委員会・公民館が主催したもの」が最も多く、ついで「学校や保護者会が主催したもの」、「町内会・自治会・婦人会などの地域の団体が主催したもの」の順である。「県・県教育委員会が主催したもの」は5番目であった。開催回数そのものの多少があるので単純には言えないが、身近で開催されている講演会や研修会に多く参加されている傾向があることを示している。これは、年齢階層別に見てもその傾向がある。また、職業別に見ると、民間企業・団体(事務)では「企業や職場が主催したもの」が最も多く、それと公務員・教員と学生で「県・県教育委員会が主催したもの」が2番目に多くなっている以外は、やはり身近で開催されているものに多く参加されている。

表5主催者別参加状況

 「講演会・研修会への参加の感想」を見ると、上位は「他の差別問題についても考えるようになった」「部落差別が何かということがわかった」「差別への厳しさと怒りを感じた」となっており、肯定的に受け止められている。そんな中、年齢別に見ると、残念なことに50歳以上で「こうした講演会・研修会が開かれることが差別を助長することになり、問題だと思った」が3番目に多くなっている。また、職業別では、商工業・サービス業で「差別を助長することになり、問題だと思った」が2番目に多くなっており、否定的に受け止められている。
 講演会・研修会の効果として「参加状況」と「冠婚葬祭の日柄(六曜)への配慮」(表6参照)、「参加状況」と「子どもの結婚相手の身元調査」(表7参照)のクロス集計を見てみると、「参加回数」が多くなるほど六曜や身元調査に否定的意見が多くなり、また、「参加状況」と「部落差別解消への意欲」(表8参照)、「参加状況」と「同和地区や同和問題についての考え方」(表9参照)のクロス集計を見てみると、「参加回数」が多くなると「積極・共感的」回答が多くなる。また、「参加回数」が多くなると、「自然解消論」も少なくなる。しかし、「10回以上参加」でも、「自然解消論」がある。

表6参加状況と冠婚葬祭の日柄(六曜)への配慮の関連、表7参加状況と子どもの結婚相手の身元調査の関連

表8参加状況と部落差別解消への意欲の関連、表9参加状況と同和地区や同和問題についての考え方

b その他の啓発事業
 部落差別の存在認識(表10参照)では、「今の時代に、部落差別は、もはや存在するはずがない」に「そう思う」とした回答が24.8%と約4分の1に上り、年齢が高くなるほどそうした認識が多くなる。

表10部落差別の存在認識

 「今後の啓発活動についての意見」は、「もうこれ以上啓発活動は必要ない」との回答が、22.3%ある。年齢別では、45歳以上で「これ以上必要ない」が20%を越えている。
 「同和問題解決のための意見」(表12参照)については、全体の傾向は、前回調査と変わらない。「自然解消論」がわずかに減り、「教育・啓発活動」が幾分増えた。また、職業別に見ると、民間企業・団体(事務以外)、農林漁業、商工業・サービス業に「自然解消論」が多い。

表11啓発媒体別の情報収集度

【「県民の意見」等募集結果】

 10月11日から31日の期間を設け、差別をなくすためにはどのような施策が必要なのか県民から意見を募集した結果、519通の意見があり、項目別に整理すると、1,795件に及んだ。そのうち、教育・啓発についての意見は135件あり、すべて教育・啓発は今後最も重要な課題であり、今まで以上に積極的に進めていくべきとする意見であった。
 また、12月14日から1月8日に行った「今後の同和対策のあり方」関連事業の素案に係る県民からの意見募集結果では、80通、項目別で400件の意見があり、そのうち、教育・啓発についての意見は45件あり、全体に対する割合では、前回の7.5%から11.3%に増えている。

表12同和問題の解決についての意見

II これまでの同和対策の成果と今後の課題及び今後の施策の基本的方向

 教育・啓発は、『従前の同和教育・啓発の中で培われてきた成果を踏まえ、同和問題を人権問題の重要な柱として、人権教育・啓発に再構築して推進していく』と、平成8年5月「地対協意見具申」で指摘、同年7月閣議決定されているところであり、また、平成12年に制定された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の第5条に『地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。』と、明記されている。
 よって、同和問題の教育・啓発は、すべての県民の差別意識解消・人権意識の向上・自己実現に向け、差別が現存する限り当然積極的に推進しなければならないものである。  平成13年度に対して平成14年度に県が実施を検討している教育・啓発事業は、別添のとおりである。今後も、講演会・研修会や啓発イベントなどは課題やニーズ、対象者の違いなどにより最適な方法で実施する。

【教育】

 意識調査の結果(表2参照)から、
(1)学校同和教育は積極的に取り組まれ成果が現れているが、理解できていない子どもたちもいるので、すべての子どもたちに理解できる同和教育のあり方について考える必要がある。
(2)大学・短大での取り組みは極めて少なく、取り組みを進める必要がある。
(3)高校についても“60%の学習状況”と言う数字の背景になるものを探って取り組みを進める必要がある。

 また、平成10年頃から学校での差別事象が急増している。これらの事象は、同和問題学習や部落史学習の中で学んだ「賤民身分を表していた言葉」や「被差別部落」という言葉を、自分たちの生活や遊びの中で安易に発言したり、人を見下したりするために使用している。学校で取り組んでいる同和教育が、児童生徒一人ひとりの心に響いていないために起こったと考えられる。
 この課題を解決するため、
 ・教職員の認識や姿勢
 ・学校体制
 ・児童生徒の置かれている状況
 ・同和問題学習の内容や手法
 ・保護者、地域、関係機関等との連携
などを検討し、見直しを図っていく必要がある。

 具体的な取り組みは次のとおりである。
(1)教職員の意思疎通・共通認識を図っていくために管理職の指導力を高める。
(2)全教科・全領域での取り組みを充実していくとともに、差別の現実から深く学ぶという同和教育の徹底を図る。
(3)教職員の人権感覚の育成を図っていくとともに、児童生徒から学び、ともに高まっていこうとする教師の姿勢や認識を育成していく。
(4)児童生徒の自尊感情を育成する方策を模索する。
(5)仲間づくりの力を見直し、仲間づくりの力を技術的にも高めるための方法について考察していく。
(6)同和問題学習の内容や手法を見直し、「理解できなかった」「自分には関係ないと思った」とする児童生徒の認識を深める学習の展開に努める。
(7)実践化・行動化と結びつく同和教育の充実を図る。

 社会同和教育では、市町村同推協の主催する小地域懇談会が、平成12年で県下約70%の地域で実施されている。学習内容は「部落差別について」「六曜について」「身近な差別問題について」等である。参加者の固定化・推進者の力不足などの悩みもあるが、毎年開催されるこれらの取り組みが県民の意識を向上させるのに役立ってきた。また、市町村や市町村同推協等が主催する研究集会も平成12年は合計37回行われ、延べ参加者数約1万2千人となっている。 社会同和教育の課題としては次のものが挙げられる。
(1)同和問題・人権問題が他人事としてしか認識できない人がいる。
(2)出席者が固定化している。特に若年層が学習を積み重ねていきにくい現状がある。
(3)小地域懇談会が実施されにくい地域がある。より多くの地域で懇談会が開催される
必要がある。

 具体的には以下の取り組みを進めていく。
(1)住民の人権意識を育成する学習内容の工夫改善に努める。
(2)同和問題を学ぶことが、自分自身にどういう意味を持つか考えることができる学習に努める。
(3)若い人・あらゆる職業の人が参加できるようにするための方法を研究する。
(4)学習機会が保障されている地域とそうでない地域の較差を縮めていくための取り組みを進める。
(5)地域の人材育成が不可欠である。

【啓発】

 講演会・研修会については、意識調査の結果(表6~9参照)から参加により効果があることが分かるので、今後も積極的に開催する。特に、表4からもわかるとおり「学生」「商工業・サービス業」「無職」等の職種や地域性などに配慮して参加しやすくするよう取り組んでいく。また、参加しなかった理由として「開催を知らなかった」という声もあり、その周知の方法を工夫する。また、公務員(教職員、警察職員なども含む)及び行政の外郭団体職員への研修は、同和問題を率先して解決し指導的役割を担っている責務のうえでも、今まで以上に重要である。
 内容については、主催者がよく検討し、参加者の共感を得、人の心に染み入るものでなければならない。それには、講師と参加者又は参加者同士で本音で意見交換ができるなどの仕組みも取り入れていく。
 講師等の選定にも特に配慮が必要で、主催者間で講師のデータベース化などによる情報の共有、積極的な講演会・研修会への参加による情報収集、県の講師団等のレベルアップを図っていく。
 市町村、地域での取組は、参加されやすい状況があるので、特に積極的な取組が期待される。なお、行政主導ばかりでなく、PTAや民間団体などNPOの活動が幅広いものとなるよう、情報や活動場所の提供、情報機器の開放、活動費の支援などを行う。
 また、企業への啓発は、「人権侵害された内容」で「職場等」が多いことを考えると特に重要である。現在まで、従業員10人以上の企業に対して公正採用選考人権啓発推進員の設置を義務づけ、企業主や推進員に対する研修などを行ってきているが、今まで以上に推進員未設置の企業に対する指導や推進員の活動の援助、商工団体や同和問題企業連絡会などの企業関係の団体等と連携を強化し、国・市町村等と協力して、積極的に推進していく。また、その対象者を的確に把握し、全員が参加できるよう工夫するものとする。企業においては、公正採用選考人権啓発推進員が中心となって、「事業所における同和問題・人権問題の取組み方」(鳥取県・鳥取労働局編)に基づき事業所内研修を進めるほか、地域懇談会や学校での同和教育参観への従業員の積極的参加を促す取組が必要である。なお、市町村など地域・企業で成功した取組などは、県全体でも積極的に推進していく。
 そのほか、媒体として県政だより・市町村広報などのように、家庭内で自由な時間に読まれるような方法により啓発を行う。
 内容については、特に同和対策事業、解放運動など同和問題解決に向けた取組の目的や成果、差別事象の原因等を単なる事実のみでなく、その背景などを併せて明確にし、誤った考え方や差別意識を助長するものにならないようにしていく。
 同和問題を口実として、高額の図書の購入など義務のないことを強要するえせ同和行為についても、同和問題の解決を阻害するものとして排除するとともに、その行為を受け入れている県民の差別意識を解消するための啓発も推進していく。

【人権侵害への対応】

 人権侵害が発生した場合、現在の行政の対応では、不十分である。まず、人権が侵害されたとき、人権相談の専門的機関に対しての相談が1%に満たない状況を見ても早急な相談窓口の充実が必要である。また、被害者に対する救済については、現在国において人権擁護推進審議会の「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項について(答申)」に基づいて法制化が進められており、その内容によっては、人権侵害被害者の積極的な救済を図るため、本県独自の人権救済施策を検討する。

【その他】

 「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づく国の基本計画と、「鳥取県人権施策基本方針」及び「人権教育のための国連10年鳥取県行動計画」の整合性を図り、常に進捗状況を把握のうえ公表し、施策を具体化していく。そのためには、県の内部で設置している『人権尊重の社会づくり委員会』(鳥取県人権教育のための国連10年推進本部)やその幹事会、外部委員も含めたところの『同和対策推進協議会』『差別事象検討会』などを今後、一層活性化させ、具体的施策を検討していくほか、「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」に基づく『人権尊重の社会づくり協議会』からの提言を施策に反映していくこととする。
 また、人権情報の発信、人権啓発の拠点として平成14年春に設置される『鳥取県立人権ひろば21』の積極的な活用、社団法人鳥取県人権文化センター、財団法人鳥取県部落解放研究所、鳥取県同和教育推進協議会など関係機関との連携充実・支援を図っていくこととする。

  

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