【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
現在、認知症の発症率を高めるリスク因子が14項目知られています。このなかで「喫煙」と「大気汚染」は、いずれも有害物質を吸い込むことで脳神経にダメージを与え、認知機能を低下させると考えられています。今回はこの2つのリスク因子について紹介します。

喫煙(たばこ)が認知症の発症リスクを高める理由
たばこには約5000種類の化学物質が含まれており、その中には200種類以上もの有害物質が存在します。発がん性物質だけでなく、神経細胞にとって毒となる物質もあります。
例えば、ニコチンには脳神経にダメージを与えたり、血圧を上げたりして悪影響を及ぼすのに、依存性があってやめられなくなるという性質があります。また、一酸化炭素は酸素の代わりに赤血球のヘモグロビンと結びつき、脳を含めた全身にうまく酸素が行き渡らない状態になります。
このように、たばこに含まれる有害物質は脳にダメージを与えるとともに、全身の血管も傷つけるため、脳卒中(脳梗塞、脳出血)を起こすことがあります。その後遺症として血管性認知症になることもあります。詳しくは「生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病)は認知症も引き起こす」をご覧ください。
なお、電子たばこも紙巻たばこと同様に、有害物質を吸い込むことには変わりがありませんので、やはり認知症の発症リスクを高めることになります。
さらに「受動喫煙」の問題もあります。自分でたばこを吸う「能動喫煙」よりも、周囲の人が煙を吸い込んでしまう「受動喫煙」の方が、より多くの有害物質を吸い込んでしまうと言われています。そうすると、喫煙者だけでなく、その周りにいる人も認知症のリスクが上がってしまいます。喫煙するということは、自分だけでなく、家族や周囲の人の健康も害してしまう可能性があるのです。

大気汚染も認知症の発症リスクを高める
たばこの煙に含まれる有害物質と同様に、吸い込むことで認知症の発症リスクを高める因子として、車の排気ガスや薪での暖房などで出た窒素酸化物(NOx)やPM2.5による「大気汚染」が知られています。
NOxやPM2.5といった大気汚染物質を吸い込むと、喘息などの呼吸器疾患につながりやすいことはもちろん、実は脳卒中のリスクを高めることも知られています。脳卒中を起こすと、血管性認知症につながるおそれがあります。
また、大気汚染物質が鼻の粘膜から神経を通って脳まで運ばれてしまい、脳内で酸化ストレスや炎症が起き、結果的に認知機能の低下をもたらすとも考えられています。
ただし、大気汚染が大問題になっている中国やインドなどと比較して、日本はそこまで大気汚染はひどくありません。特に鳥取県は自然豊かで、大都市よりも空気がきれいですので、認知症予防の観点からはそこまで大気汚染の心配をする必要はありません。
なお、特に高齢者は大気汚染の影響を受けやすいので、黄砂が降る日はマスクや空気清浄機などを活用することをご検討ください。